神奈川細雪その六

見合いを勧めてきたのは、乾物屋のたねさんだ。

「一概に、仲人口ってあわはりますけど、信用してもろてかまへん。二つとないええ物件や、見てみなはれ。ちゃんとした勤め人、ややこしい親類はなし、それにな」

「見てえな、いい男ぶりですがな、外を歩くと近所中の娘さんが、きゃーきゃーいわはるらしい。本人みたら、わてかてぽっと赤くなったねん、成田屋か、音羽屋ってとこやな」


「文子ですか?秀子でなしに」

膝前に広げられた釣書を富は恐る恐る手にとった。

「そやなあ、うちは文子さえよかったら、なあ文子
見てみい」

これが見合い写真と言うものか、恥ずかしさに顔を上げられない文子に

「ふみちゃんは本当に純情な子やなあ、気立てよし器量もよし、姉妹の中で一番に幸せになりい」


「だけども、たねさん、順番からいえば秀子が先ですなあ、文子は家のことこまこまやってくれる子なんで、嫁入りされたらうちが困る。」


「娘を家の犠牲にしたらあかんよ、こんなあばら屋の娘さんに、長女も次女もあるかい。あんなあ」


「言い辛いけどなあ、秀子ちゃんは良い噂あらへんのや、中居なんてだしたら、これ以上は」

そうか

そうか

可愛そうに秀子は、家の犠牲になったんは秀子もおんなしやなあ