2020-01-01から1年間の記事一覧

神奈川細雪その二十九

「秀ちゃんへ あんなあ、文子の縁談がまとまってな、お母ちゃんは今、大忙しなんや。福田小児科の先生が、お仲人やさかい、仕来たりもええかげんに出来へんの。まずは結納やろ、本家のばあちゃんに聞いて、納める品物準備しとる。堪忍な、そんな訳で今、帰っ…

神奈川細雪その二十八

ステージ中央の光の渦の中で、今一人の少女が歌っている、後ろに並んだバンドはまるで彼女を守る従者のようだ。ステージの暗がりで千鶴子は出番を待っている。永劫、続く光の中に千鶴子は生きたいと願っている。幸か不幸か、四人姉妹の末っ子に生まれたこと …

神奈川細雪その二十七

「秀ちゃんが、結婚一番乗りやなあ、しぶちんやから、お金と結婚するんやと、思ってたわ」 手紙をひろげたとたん、富の顔は曇った。「こんな、調子のええ話があるやろか、秀子はすっかり浮かれとる。おじちゃんたちに相談して、返事書かんとな」「騙されてい…

神奈川細雪その二十六

「珍し、秀子姉ちゃんから手紙きてはる。」母は、手紙など細かい字を読むのが苦手だ。先に自分が読んでもいいだろうか。考える前に文子は鋏を手に取る。「お母ちゃん、御無沙汰しています。柿先神社のお祭りが終わった頃やろか、今日は、みんなをびっくりさ…