神奈川細雪その二十六

「珍し、秀子姉ちゃんから手紙きてはる。」

母は、手紙など細かい字を読むのが苦手だ。先に自分が読んでもいいだろうか。

考える前に文子は鋏を手に取る。

「お母ちゃん、御無沙汰しています。柿先神社のお祭りが終わった頃やろか、今日は、みんなをびっくりさせる、報告があります。
実は、この度、結婚することになりました。
相手は、荒井康夫さんといい、私が働いている銀水旅館のお客様です。去年から付きおうて、プロポーズされました。
東京で電機配線の会社、やってはるんやて。うちは一気に社長夫人や、みんな喜んでくれるやろ?
世田谷辺りに新居を建てて、秀ちゃんが家事が苦手なら、女中さん置いてもええって、優しい人なんよ、見た目はな、坂本九ちゃんにそっくりや
結婚式は、日比谷の帝国ホテルで、挙げようって、毎日言われとる。
文ちゃんやお母ちゃんにも、喜んでほしい、玉の輿やもん、
正月にみんなに披露するから、会って下さい、
それじゃあ、みんな体に気をつけてな、銀水旅館は年末で辞めます、
秀子」