神奈川細雪その二十五
はずみがついたように、いつもは寡黙な祖母の話は終わらない。
「年頃やさかい、縁談もくるやろ、選ぶ時はしっかりな毎日会社に行く男はんにしなはれ、男運の悪いんは、わてとみつでお仕舞いにしまひょ、」
「結婚て何か、ようわからんのや、お父ちゃんが居ないせいやな」
「こげな貧乏してるけどな、文子を嫁に出す時は精一杯のこと、せえへんとな。箪笥、長持は新品持たすえ、振り袖は、昔のもんがとってあるからそれを着たらええ、鶴と松の縫いの入った、豪勢な振り袖や」
「お祖母ちゃんが元気なうちに、うち結婚出来るやろか」
「文子、、、」
「子供のうちから、賢うて面倒見が良くて、優しい文子や、富の事は心配いらん、とっとと嫁にいき、そんでぎょうさん、ややさん産んでや」
「おおきにな、お祖母ちゃん、そろそろうち、玉の湯にいかんならん」
「なら、仕事場の玉吉おじちゃんに声かけて、一緒にな、行き帰りが物騒や。」
汚れて磨りガラスのような窓に夕やみがわだかまっている。