神奈川細雪その二十七

「秀ちゃんが、結婚一番乗りやなあ、しぶちんやから、お金と結婚するんやと、思ってたわ」


手紙をひろげたとたん、富の顔は曇った。

「こんな、調子のええ話があるやろか、秀子はすっかり浮かれとる。おじちゃんたちに相談して、返事書かんとな」

「騙されていたってええやないの、秀ちゃんは大人やで、恋愛は自由や」

「千鶴子、秀子は長女や、おかしな聟などおったら、あんたらの縁談にも響く」

「会社の社長やるような、偉い人が中居なんぞと一緒になるわけない、お母ちゃんは世間知らずやけど、聟さんの苦労は人の倍もしとる、 」

「ほらえ、文子、あんたにまた縁談きましたえ、こんだは福田小児科の奥さまの知り合いや、釣書みて、早うお返事せんと」

膝の前にひろげられた写真に文子の目はくぎ付けになった。

色白でぱっちりした目が優しげに微笑んでいる。引き締まった口元も上品だ。

「こんだの人は、江の電の運転士さんやて、手に職が有るってええわ、会って見るか、文子」