神奈川細雪その2

顔にも体にもほってりと肉が付き、鈍重そうにみえる登代子だが、かなり手先は器用だ。
今も重ねたガーゼ生地を、レース糸でかがりハンカチを作っている。


「もうすぐ秀子姉ちゃんの給料日やな、」

「あてにせんほうがええで」


「だって、修学旅行のお金、どしたらええねん」


「あんなしぶちん、出してくれはるわけない」


「うち、箱根まで貸して貰いに行くわ」


「無理やろうな、中居って、お給料のほかにお客さんからのチップがごっつうあるんやて、それをえげつなく溜め込んでるらしいわ」


下をむいた登代子の膝に涙がぽとぽと落ちる。


「修学旅行、、、」


「泣きいな、」

「せや、豊隆軒のおっちゃんが、皿洗いのバイトの女の子、探してはったわ」

「とんちゃん、夜と日曜日てつどうてあげたら?」


ようやく登代子が顔をあげた

「間に合わへん、あこは出前の小僧さんらにも給料出さへんて有名な店や」