神奈川細雪その八
円錐形に固められたチョコレートがベルトコンベヤーに載って流れてくる、チョコレートの真ん中にパラソル形の小さな柄を差すのが、登代子の仕事だ。
手先は器用な登代子だが、とにかく動作が遅く流れに乗ることが出来ない。
柄を差し損なった分は下流で待ち構えている姉の文子が、差してくれる。
「あとちっとで休憩時間やわ、とんちゃん気張りぃ、」
妹が髪を押さえた三角巾から汗が滴っている。
中学卒業と同時に女工となった若い姉妹に、仕事の向き不向きなど分かるはずもない。
「平川さん、おしゃべりは休憩時間にしてんか、つばが飛ぶさかいにな」
工場長からきつい目を向けられて、登代子はさらに汗をかく。
町内には、万年筆工場、製菓工場、ゴムタイヤ工場と勘定出来ないほど工場がひしめきあっている。始まって以来の好景気らしく、「女工募集」の看板はどこでも目にする。