神奈川細雪その十一

何をやらせてもどんくさい子

姉妹一の役立たず


「鈍いことは牛に任せてな、登代子ちゃんさっさとやりよし」

底意地の悪い近所の女達に追いたてられても、登代子の笑窪は消えたことがない。


確かに洗濯をやれば午前中いっぱいかかってしまうし、雑巾がけをやらせればしぼりの足りない雑巾があっちこちに水溜まりをつくる。

おっとりと優しい母は「ちいっと絞りが足りんねえ」

きつく叱られた事がない。


賢く、美しさにも恵まれた姉たちを見ていると、何かの違いに気づくのだ。

それは物心ついてから、ずっと登代子に纏わりついてきた「種違い」という言葉


子供はどうしたら生まれるのか、うっすらとは分かってきたが、「種」とは何か

大人に聞くわけにはいかないのだ。

「種」がおなじでも妹の千鶴子は、人が振り返るほどの美少女ではないか、

考えると頭がこんがらがるので、登代子はひたすら、ビーズ細工に没頭する。

近ごろ流行のビーズのバッグは登代子が一番綺麗に編める。

「とんちゃん、キラキラしてて綺麗やな」

「ふん、鞄屋の店に頼んで売って貰うねん」

カーテンもない座敷には西日がまともにあたり、チカチカする。