神奈川細雪その十八
警察と消防団、併せて二千人以上が隈無く捜索したにもかかわらず、四才の少女は行方不明のままだ。海へ注ぐ花水川の河口、生い茂る葭を掻き分けるようにして、探しに探して一年が過ぎた。
「誘拐されて、新幹線のコンクリートに塗り込められた」
そんな不気味な噂話がまことしやかに囁かれている。
少女の両親は屋台ラーメンを引く夫婦で、玉吉の姿を見掛ける度に、窶れ果てた身体を二つに折る
「親方、家の子供のこつですんまへん、仕事に支障がでたら、お詫びのしようもありません」
「不思議じゃあ、海も川も湘南平もこれだけ捜しつくしたに、ズック靴一個見つからんとはなあ」
「警察さんも消防団も、どんだけ感謝しても足りません、あとはうちら夫婦が気長に捜しますけえ、」
ラーメン屋夫婦がペコペコ頭を下げながら行ってしまうと玉吉はいこいに火をつける
地域の結束が強かったのは戦争前の事、今はオリンピック、東京タワー建設、次から次へと発注される、公共施設の仕事にありつこうと、日本中の人間が大都市を目指す。
上手い儲け話に食らいつく人間にろくな奴はいない、
去年、有限会社にした「平川工務店」にも愚連隊上がりの少年はいるが、一人前の職人に育て上げるのが、自分の仕事だと思っている。