神奈川細雪その二十四

「戦争かて、庶民は誰も有り難がっておらへんよ、中国を我が物にしたかった、軍隊が勝手に始めくさったんや」

「文子、知ってるかあ?隣のセキお婆さんのお母ちゃんは風呂に入ってる時に飛行機にバババンと射たれはった、お腹射たれて、逃げる間もなかったろうに、うちのお父ちゃんがこさえてあげた内風呂でな喜んではったに」

「戦争だけは嫌じゃ、嫌じゃ、嫌じゃ」

「お祖母ちゃん、うちも3つ位だったけど、覚えておる。柿先神社で遊んでおるとき、気がついたら空に飛行機が一杯おったの、生きた気ぃもせなんだ、木の根っ子につまづいて、痛い、思たら、知らん男の人に抱き上げられてた、爆弾の雨の中、走って助けてくれはった、恩人がおるねん」

「そりゃ、権祢宜の泰助さんやな、死んだと諦めかけた文子が傷ひとつなく戻ってきたんやもん、泣いてお礼言うたわ、」

「柿先神社はうちもお供え、欠かしたことないけどな、泰助さんは胸が悪くて、兵役免れてはったんに、戦争末期には、普通の者と同じに赤紙きよった

「行かされたんは、寒い、寒い、シベリアやそうな
可愛いそうにな、それから、ばあちゃんはシベリア向いて、おがんどるの」