神奈川細雪その二十二
「文ちゃん、明日、仕事が終わったらな、ダンスパーティ行かへん?」
誘って来たのは更衣室で挨拶する程度の先輩社員だ。臨時雇いの文子らをいつも下に見ている。
「へえ、明日は早く帰らんとあかんのだす。お母ちゃんの内職の洗濯挟み、配達せな。」
「兄貴が、文ちゃん紹介しろってうるさいんや、最近、文ちゃん、モテてるで」
「、、、、」
工場履きを下駄に履き替えながら、文子は「いやなてんごうやな」
と心の中で吐き捨てた。
自分もいつかは結婚するだろう、だがダンスパーティのようなチャラチャラした場所に出入りする男など願い下げだ。臨時雇いというだけで、言う事を聞くと思われるのも嫌だ。
戦争が終わって世の中の考えは変わったのだろうか。「うちは、清らかな体でいたいんや」
残りの姉妹たちはどうだか知らないが