神奈川細雪その二十一
富の家の四姉妹の末娘が美人コンテストに「優勝」したというビッグニュースは、たちまちのうちに街中に広まった。
富も姉妹たちも歩けば捕まえられて、話をききたがる。
「富さん、富さん、あんたとこのちいちゃん、この度はおめでとう、お茶入れるさかいちいっとよっていかんか?」
「へえ、山口さん、ちいなら、予選に受かっただけですよって」
「そんでも、産まれた時から知ってる娘さんやんか、うちらかて舞い上がるわ‼前々から、キレイな子ぉやと思ってたんよ」
「優勝は無理でっしょ、そこまでの器量でもなし」
「いやいや、うちの商店街から女優さんでるかもわからんよ、まだまだ買えんけど、テレビにでたら真っ先に買うわ、」
千鶴子の高校では、生徒だけでなく教師まで千鶴子を見に来るらしい。
「君が平川千鶴子さんかあ」
「はい、」
「将来は歌手とかを目指してはるの?」
「先生、うちは貧乏で歌のレッスンなんて通えんのです。基礎がないものがやっていける世界やないと思います。」
「ソルフェージュくらいなら、僕がさらってあげてもええで。放課後や」
「そんなん、えこひいきやてみんなに苛められます」
「なにをいうてんの、苛められたかてええやん、君は人を蹴倒していく芸能界を目指しているんやろ、羨ましがられてなんぼの世界や」
「、、、、、、」
「まずは姿勢を直さな、声は腹から出す。私は夢見るシャンソン人形、、、この歌ええやろ、あしたから、音楽室きい、待っとる」