神奈川細雪その十四

「いやや、ふみちゃん、うちに会いになんかきたらあかんよ、」

「なんでえな、小学校からの幼なじみやん、何処に住んだかて、友だちや」

「友だちかて、決定的に差がついてしまうんよ、うちも詳しくは知らんけどな、オモニに聞いても暗い顔して黙りこんでしまいよる、女しか出来へん、男相手の仕事やろな」

「女給さんと違うの?それなら従姉妹の初枝姉ちゃんもやってはる」


「仕度金というの、来週あたり貰うんや、そしたら田中写真館で、一緒に写真撮ろう、
写真撮って、「ウグイス」で餡蜜食べて、お揃いのナイロンバッグ買いましょう」

「ええな、ええな、それまでにな千草ちゃん、しっかり身体治してな」


秋の斜光が目に入るのか、千草の目が赤い。

「パラソルチョコレートだけは一生見たくないけど、ふみちゃんと働けて楽しかったわ、ちゃんとした勤め人と結婚して幸せになってな」

「うちはなーにも取り柄がないさかい、次の縁談がきたら決めてしまおうと思うんよ」


「それがええな、ふみちゃんの花嫁姿、見たかった」

茜色に染まったくもが東のそらを覆っている。遠くから、チャルメラの物悲しい音が流れてきた。