神奈川細雪その十六

ウグイスで向かい合った研吉はまず若葉に火を付けた。

「わては、芸能人なんて知らんけどな。今一番の人気は吉永小百合やな。これが健気で泣けるんよ、貧乏人の娘やらせたら日本一や、」

「おじちゃん、サユリストなん?意外や」


「ちいちゃんもサユリちゃんみたいに、映画に出たいんか?」

「映画もええけどな、これからはサユリちゃんとか原節子とか、日本風の美人より親しみ易い顔が受けるんちゃう?」

「家にはテレビがないさかい、古い雑誌見るとな歌手も美人はおらん、外人ぽくて可愛いくて、愛嬌のある、そんな女の子がデビューしとる」

「ちいちゃんは、良く研究しとる」

映画女優とか、うちに出来るはずない、サユリちゃんはほんとは、ええとこのお嬢さんやろ、うちはなあ」

「スパーク三人娘みたいに、ちょっとした番組に出て歌を唄ってファンの男の子からキャーキャー言われたいんや」

「可愛いベビー、ハイハイ、」

この頃ラジオを着けるとノリのよいこの歌がかかる。

「美人コンテストは受かりそうなん?」


「駄目や、毎年二千人くらい応募があるんよ、うちかて、さっぱり自信ないんや、うち程度は所詮田舎の美人や」

「、、」


気がつくと煙草が指を焦がしそうになっている。映画のスクリーンと可愛い姪の姿を見ようと、目をとじたが、セーラー服のサユリちゃんの顔しか見えない。